豊饒の海一「春の雪」 (著:三島由紀夫)

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なぜ三島由紀夫?と疑問に思われる方、私自身もまさか彼の文学に触れることになるとは思ってもいませんでした。きっかけは、外国の友人が三島由紀夫を「人生の師匠」と慕っているため、文化を超えて共有される彼の魅力を探るべく、思い切って挑戦をしてみました。

 

壮絶な人生の最期を迎えた彼の経歴をご存知の方であれば、彼の作品の中にはどこかどろどろとした闇が潜んでいるのではと印象をもたれるでしょう。しかし、彼の文章は非常に端的・直接的で、潔い武士の香りが漂っており、とても好感が持てます。

 

しかしながら、本作品のストーリーはどうしても私の肌には合わず、あまりじっくりと読むことができませんでした。許されざる恋に身を焦がす男女のお話ですが、どうも共感ができないのです。ラブストーリー好きの私がどうして気に入らないのか、それは真の愛が描かれていないからだと思われます。

 

本当の愛を「お互いをお互いのままに受け入れあうこと」と解くならば、「相手の幸せ」は、次第に「自分の幸せ」に転換していくことでしょう。しかし、主人公の清顕は恋することに溺れてしまい、相手そのものが見えなくなってしまっているのです。恋する自分に恋をしている男性に、女性はキュンとしませんよね。

 

そんな自分勝手な主人公を、全力で支える友人の本多に、私は好印象を抱きました。身勝手な要求を迫ってくる主人公に、いかなる協力も惜しまない本多の懐の深さに感銘を受けない人はいないでしょう。本多は主人公に従わなくてはならない所以は一切ありません。加えて、本多は常に主人公の幸せを自分の幸せのごとく望んでいるのです。

 

皆さんには、自分の幸せをそのように受け止めてくれる、真のパートナーはいらっしゃいますか?愛とは、友情とは、そんな大きなテーマが各キャラクターを通じて、さりげなく私たち読者に語り掛けます。